定年退職者にとっては、その心の問題は大変重要です。典型的なサラリーマンにとって55歳~60歳と言うのは複雑で日々失うものの数を数えて暮らす日常です。自分はまだまだと思う日でありながら、最後の1年ともなると、自分になにがあるのかと自問します。家族で言うと、これまで自分中心だった妻も今は子供ファーストで次は自分セカンド、そしてかなり空いて夫となります。仕事漬けの日々は話題も限られてきますし、最近は“また同じ話”と揶揄されるようになってきます。子供や妻を従えて来たと思っていても、今では妻や子について行く日々、そして“その日”を迎えます。
何もできない自分と、当てにしてもらえない自分
定年退職後はしばらくは厚生年金や健康保険、市民税などの手続きに取られます。ここで第一の関門があります。それは“何も知らない自分”です。何十年も社会にいながら納税など些末と思えることは会社がしてくれてましたので、税金の事や手続きについてはほとんど何も知らない自分が少し恥ずかしく感じます。そこで一生懸命勉強をして手続きに奔走するのが始まりです。
さて退職金がしこたまあってしばらく悠々自適に過ごそうとしても、妻との生活の違いを実感してしまいます。一緒にお出かけとなっても、交友関係やお店の事、ちょっとした旅行については圧倒的に妻がリードします。坐業が多かったので、ちょっと歩くと体が痛くなるし、大体自分で頭も腰も低くして溶け込もうとしませんから、すぐに孤立してしまいます。そこでボランティアとなるのですが、自分の都合の良い時だけと言うのでは、すぐに当てにしてもらえなくなります。家にいるとどうしても家事をすることになりますが、これまで甘やかし続けられてきたこともあって、これもできません。
自分が何もできない人間であったと気付かされたり、誰からも当てにしてもらえなくなる事実は、これまで会社村しか知らなかっただけに、絶望的に気分に晒されることになります。
身体能力の低下が駄目押しをする
しかし、多くの場合、一念発起してかつての輝きを少しでも取り戻そうと頑張るのが普通です。しかし50歳~60歳までに筋トレなどを継続していれば別ですが、普通は60歳を過ぎれば自分でも驚くほど筋力も持続力も低下しています。そこで自分に合ったウォーキングくらいに止めておくことになります。また60歳を過ぎるころには1つや2つの持病を持つことになります。精神的に内向きになり、身体的にも非行動的になるのですから、現実にも向かい合えなくなるのは時間の問題です。
時間と言えば、この頃から時間の使い方が下手になります。これまでは分単位のスケジュールをこなしてきても、それは周りの環境がそうさせていたに過ぎず、自己管理しなければならないのは苦痛になります。
そのほか、テクノロジーの変化も60歳の自己否定になる場合もあります。会社にいるとウェブ関連は若手社員がしてくれるので自分は出てきたデーター類を見て何か言ってれば形になったかも知れません。ところが独り立ちすると何をするにも、ウェブリテラシーが求められ、それが全くできないことが苦しみになったりします。もちろんこれらの話は、一般的なサラリーマンを例にしていますので、自分はそれに該当しないと考える人はいくらでもいるでしょう。ですので、ある一定数いる、平均的な姿だと思って頂ければそれで充分であることは前提となります。
「60歳にして“夢”あり。いくつになっても“夢”を持とう」
こんな定年退職の姿ですが、その解消策として、私は上の言葉を捧げたいと思います。現実問題の前に“夢”など抱いている暇はないとか、この歳になって“夢”を持つなど非現実的だ、などと考えないで下さい。これまで、会社村社会の中で、全てを押し殺して働いてきたと言う方もおられるでしょう。忙しくて“夢”など持ってる暇がなかったのに、今さら“夢を持て”と言われて持てるはずがない。そう言われる方が多いのも事実です。
しかし、それはサラリーマンの甘えです。例えば専業主婦は楽でしょうか。皆がそうだとは言いませんが、毎日、掃除・洗濯(干して乾いたら取り入れて、畳んで箪笥に終うまでが洗濯です)・子供と貴方の食事の準備から水屋周りの整理まで、休みなくしているのが主婦です。しかも主婦には日曜・祝日も、定年退職もない中で、しっかり知識も経験も、近所づきあいなども蓄積しています。そして、夫が退職すればランチや習い事やお付き合いやと忙しく飛び回ります。彼女たちに“夢”を聞くとほとんどの方が、何かしら口にします。それに比べると、サラリーマンは如何に軟弱であったかが分かります。
周りが自分を必要としないとか、夜何度もトイレに起きる、また腰痛が出たなどと言う弱気な言葉をシャットアウトして、再雇用だとか年金問題などを伝えるテレビの報道にブツブツつぶやくのを止めて、口から“夢”がさえずるようにすることを心がければ、きっと退職生活も上向いて行くのだと思います。