“VR(仮想現実)”はここ数年で一気に幅広いジャンルに拡大してきました。娯楽分野では渋谷などでこれを売りにしたアトラクション施設が幾つもオープンしていて、5つくらいのコーナーを体験して2000~3000円くらいが相場になっているようです。もちろん今後、バリエーションもコストも変遷を繰り返して行くのでしょうが、今はまだ都市部でのみ見られるものですから、その広がりは限定的と言えるかも知れません。それに比べてVRゴーグルなどは爆発的な広がりを見せていて、価格の安さも伴って、既に若い年代にとってはもう必需品と言えるでしょう。思い出せばVR草創期に最も期待された利用分野としては、「医療・ヘルスケア」がありました。やはりこの草創期にこのジャンルのメーカーを立ち上げた知人に現在の進行度について聞く機会がありましたので、さて予想通りに進んでいるのかなどを伺って来ました。
VRの市場規模が少なく思えるわけ
彼によるとヘルスケア分野に於けるVRやAR(拡張現実)にMR(複合現実)の市場規模は2020年には150億、2025年には330億円になるとのことでしたが、どうもこれは少ないのではないかと感じます。例えば現状、ヘルスケア分野は“治療”・“介護”・“医療データーの視覚化”・“臨場体験”・“フィットネス”などのジャンルがあると言います。このうち治療に絞っても現状の医療費に対する治療メソッドの割合で算出すれば2025年であれば500億は下らないのではないかと考えたのですが、氏によるとその規模になるには幾つかの規制の緩和が不可欠で、それはなかなか実行されないのではないかと考えているようです。
私が当初、治療の部分で500億と見積もったのは、やはり治療のデーター化には幾つもの壁があり、それは単に規制緩和によって大いに拡大すると言うものではないように思えます。例えばまだ日本では本格的な研究報告はありませんが、PTSD治療への文献が幾つも出ています。日本の研究者の名誉の為に言えば、日本はこの分野が遅れている訳ではなく、研究の方向性が少し違っているだけで、例えば幻肢通(四肢を失った場合や、神経断裂による感覚消失)の治療などの研究は進んでいるようです。これは幻肢を動かすことのできるイメージを持てる人ほど痛みも弱いところからの発想のようですが、確実に幻肢を動かす体験学習は効果があるようですが、コストと患者数からするとそれほど大きい規模にはならないなどの問題もあるようです。
期待度の高い”医療データーの視覚化”
今回、大変ユニークだったのはこれは治療に入るのか、臨場体験になるのかは不明ですが、統合失調症の疑似体験をすることで、症状の緩和につなげることも可能であると言う研究も進んでいるらしく、これに関しては比較的近い未来にも導入されることになりそうだと言います。
また大化けする可能性に満ちているのが“医療データーの視覚化”のジャンルのようにも思えます。ひと頃は例えば腹腔鏡手術にしても、確かに立体的に映像データーを把握できるに越したことはないが、それが必須であると言えるほどのものではないと言うようなことが現場の医師などから出たこともありましたが、VRを利用したトレーニングマシーンの格段の進歩により、有益度が増している現実もあるようです。また循環器で言うと内蔵別の研究が進んだことでできる“組み合わせ技術”にも大きな進展があるようです。
未来に期待できるVRの医療業界に対する貢献
フィットネスについては運動機器にVRを導入して臨場感から能力を引き出す方法がありましたが、まだその域からは出ていないようですが、普通に考えれば精神的な修養としてのVRの活用は容易に考えられますが、市場規模はそれほど莫大に広がるようには思えません。なかなか厳しいものです。
しかしこうした現実を見ると、VRと言えども畢竟は新たな発想やアイデアの導入が重要だと言う事実に突き当たります。その意味では日本のIoT技師はまだまだオリジナルの発想に弱点があると言わざるを得ないところがあります。
今回は、氏からも“オフレコで”と指定されたネタもありましたが、各企業の頑張りに期待します。いずれにしても2025年までには、今の規模の拡大に繋げて行って頂きたいと思います。