日本型企業文化の崩壊の足音 平気でマネージメントを放棄する経営者

中小企業からの相談で、この数年一気に増えたのが、雇用や人事業務をアウトソーシングする為の手続きや手配についてです。例えば“現在20人いる社員を整理して、正社員を減らしてほしい”とかそこまで行かなくても“採用・雇用など人事業務を外注したいのだが、適切な委託先を教えてほしい”とか言う相談です。これについては、経営が逼迫してきたとかの理由はほとんどなく、むしろ収益が伸びてきたり、以前から安定している企業からの相談がほとんどです。相談を受ける立場から言うと、本当はやり易い業務ですが同時に受け難いものでもあります。

人事業務は煩わしく、非効率的に見えるが、それは経営者の能力が不足しているに過ぎない

“やり易いが受け難い”とは換言すると、「目先の収益の為にはなるが、将来的には顧客を失うリスクがある」と言うようなニュアンスでしょう。例えばある技術系中少企業の例ですが、社員は30人、ほとんどが技術者でした。社員の高齢化もあり、ある時点で再雇用と正社員の採用を無くして、人材派遣会社からの補充で賄おうとしました。結果、これまでの人事・雇用の費用は30%近く減り、収益は増大したのは言うまでもありません。あれから3年。同社の収益は安定していて、人事経費の分、収益は上がっています。社長は自分の判断が正しかったと自負していて、会合などでも他社に進めています。しかし私は明確に“大きな変化”に気付いています。

現場の担当者を社長が知らない症候群

社長は二代目ですが、かつては、30人の仕事や名前、人となりを良く把握していました。しかし今では各部署のトップのことくらいに終始しています。また現場でも社長とは話をしたことがないとか、ほとんどないということで、当然ロイヤリティも皆無に近く、“我々の会社を業界トップに上げるんだ”というより“きっちり、給料に見合った働きをする”ことに重きが置かれているようです。


ここに“組織”と“働き手”の関係の希薄化がみてとれます。これは企業経営についてはとても危険なことです。確かに雇用関係が希薄であれば、その人が長期で働こうが短期であろうが関係はありませんし、雇用関係があることで発生する変なプレッシャーからは解放されます。最初、こうしたことは経営者の能力の問題だと指摘しましたが、そうであっても現実に能力が不足しているのであれば、こうしたプレッシャーから解放されるのは大きなメリットかも知れません。

人材の育成こそ企業の最も重要な業務課題である

なぜ最近の企業がこうした人材派遣会社を使うようになったのかと言うと、業務の再検証をするにあたって仕事と費用のバランスがとれていないと判断されたからのように思えるのですが、実際に彼らと話をしていると“○○会社で成功したから”と言うような理由を挙げられるケースが多いようです。しかし考えてみればそれは当たり前のことで、企業が人を雇い人事課に配属させて仕事をさせるのと、限られた業務を掛け持ちできる仕組みをもった外部企業とでは、コストに差がつくのは当たり前です。
ちょっと頭の良い企業であれば、社内に新しい人事システムを自前で構築すれば、効率があがることくらいすぐわかるので即実行しますが、経営者が遅れていては、これがとてお美味しそうに見えるのでしょう。

次のページへ >

  • B!