ここ数年、日本の経済界はアベノミクスの影響もあって、バブルの時代を追い抜き、史上最高の収益を上げているそうですが、私達の目や耳に飛び込んでくるのは、日本を代表する企業の考えられないほどの不祥事の連鎖です。単なる不祥事のレベルではありません。明らかに市場や顧客、或いは日本の法律を平然と無視したような犯罪レベルで、日本の一流(?)企業に何が起こったのかと訝る声も理解ができます。そして多くの企業では犯罪に問われずとも、その一歩手前の兆候、企業倫理の破綻の様相をみせている例が少なくありません。これは日本の企業文化の崩壊を意味していると言わざるを得ないでしょう。
楽しいはずの商業施設で憤慨?
年明け早々のミーティングでも、このテーマが取り上げられ、流通部門スタッフが特にイオンモールの運営について爆発していました。その一例としての実例によると、年末に買い物に行った消費者にわたされた福引き券をあげていました。抽選自体は年明けの3日と4日に開催されるとのこと。年明けにも来店させようということでまあ許容範囲ではあります。ただ現場での“静かな混乱”は顕著であったと言います。
要はこの福引きの客読みの問題で、どれくらいの来客があるかは予想がつくにも関わらず、両日同施設では物凄い行列が発生して、1~時間半の待ち時間が続いたのだそうです。その間、あとどれくらいかかるとかのお知らせもなく、棒読みのような「お待たせして申し訳ないです」を繰り返すだけで、時間切れで列を離れる人や、座り込む人、明らかに不満顔の人が溢れていたようで「不満足指数」の高い状態が続いたということでした。中には途中でトイレに行きたくなって、係員に中座したいというと「途中で抜けられるともう一度最初からお並び下さい」と言われたそうで、ふざけるな!と一喝してその場を去った光景もあったようです。
しかし商業施設のテナントも大人しくなったのですね。せっかく正月早々、人員を配備して売り上げの促進を図っているのに、お客様を意味なく1時間以上待たせて、且つ気分を害させるなんて、昔ならテナントの責任者がデベロッパーに猛烈に抗議したものです。しかし面白かったのはそれを聞いていた他のスタッフの反応で、だいたいが「今の商業施設というのはそんなもんですよ」というものでした。
いつの頃からか、日本の商業施設では「慇懃無礼」が瀰漫しています。意味は「言ってることは丁寧だが、していることは無礼極まりない」ということです。これはやはり欧米の商業文化が入ってきてからのことでしょうか。或いは日本の企業文化が内部で崩壊しているのでしょうか。おそらくはその両方の融合により“(悪い意味での)新しい日本の商業文化”が生まれたのでしょう。でもこのやり方だと客あしらいがやり易いこともあって一気に広がっていったのですが、所詮消費者が我慢しなければならないわけですから、消費が冷え込んでも仕方はありません。高価なタブレット端末を打っておきながら説明書も付けないとか、品揃えを絞り込んで、消費者に選択肢を与えないなどもその範疇で、それを「賢い」と感じる消費文化が生まれました。
原因は甚だしい消費者軽視
そして出来上がった社会が現在です。そのこころは「甚だしい消費者軽視」の姿勢です。消費者がどう感じて、どのように満足するかは別物で、イオンモールを始め、多くの百貨店が「顧客満足」と叫び続けながら、結局は所詮消費者に向きなおろうとはしていません。だからモールの外で地方の小売店が根絶やしになろうと、周辺の治安や交通渋滞が悪化しようとお構いなしで、モールの中ですら「問題にならなければそれでよい」という姿勢が見え隠れしています。
インバウンドが好調と言いますが、この需要のために各社は大変な取り組みをしています。売り場に言葉の話せるスタッフを常駐させ、彼らが気に入りそうな商品を仕入れて陳列し、場合によっては免税手続きもする。店内外にも外国語の張り紙をして、公共交通機関でも日本語以上の長い時間外国語表示がされる。心は籠っていないのかも知れませんが、少なくともインバウンド買い物客にとっては快適な環境に向かっています。その反面、一体その何十倍と買い物をする日本人消費者の為には何をしているというのでしょう。
勝ち組に共通した“消費者目線”
逆にいわゆる“勝ち組”と言われる中で、本当の意味での業績を伸ばしている企業の中には常に消費者目線が行き届いていると感じる企業が多いのも特徴です。しかしこれは“勝ち組”に共通した特徴ではなく、一部の“勝ち組”のコンセプトに共通したものであって、なかなか主流とはなって行かないといえます。
“おもてなし”が流行っていますが、その定義すら決まってはいません。あるところでは和風の雰囲気で接客するのがそうだという対応ですし、別の所では何かをあげるのがそうだといいます。中には声掛けがおもてなしだと思っていて、では接客とどう違うのですかと言えば、口ごもってしまうのが関の山の状態です。これもバブル崩壊後、日本の企業文化、商業文化が崩壊してしまって口先だけ文化が瀰漫したためと言えるのではないかと思えます。
新聞紙上にはほとんど毎週のように、日本を代表する大企業の不祥事が、取り上げられています。それも、ちょっと信じられないような、顧客軽視の内容です。ではこの顧客軽視の原因はというと、それは日本の企業の組織構成にありますが、これなどを精査すると、日本の戦後の企業社会の悪しき側面である“集団の中に埋もれる企業文化”が露骨に表面化したものと言えるでしょう。これについては大きなテーマでもあるので、また別の機会にでもお話ししたいと思いますが、このような企業文化は“資本主義経済の行きつく先”を予想させて陰鬱な気持ちにさせます。今は好景気なのだそうですが、巷で囁かれる“2020年の衝撃”が現実化した後、一気にパンドラの箱が開いてしまうことが現実味を高めることは間違いがないようです。