昨年末、政府は電子マネーによる給与の支払いを解禁する方針を決定しました。これについては詳細は決まってなく、これから経済界などと協議を図りながら制度設計を進めるのだそうです。ただその実施は来年度からと決まっているようで、そうであれば“これから実施を目指す”わけはなく、あらかたの部分についてはまとまっていることが予想されます。
“電子マネーによる給与の支払い”とは、具体的に言うと、企業が専用のプリペイドカードやスマホの決済アプリなどに給与を入金することで、これは政府が進めるキャッシュレス社会と、戦後日本の官僚が意識の有無に関わらず結果的に進めてきた“黙って買い物ができる社会”の事実上の実現に限りなく近づいてきたと言えます。
モバイルペイメント化の問題点は果たして本当に問題なのか
先日モバイルペイメント企業の方と話をしていると、このような話になりました。それはキャッシュレス社会が浸透しない原因と、効果についてです。
進まない原因としては、①日本でキャッシュレス化が進まないのは、日本の通貨に対する信頼性が高い。②現場での対応がスムースで個々の店員などのレベルが高いからだと言います。
効果については、①人手不足の解消に役立つとか、②決済に関係する膨大な無駄を省くことができるなどですが、この辺りは説得力に欠けるもののように感じます。
進まない原因というのはそれぞれ日本が世界に誇れるものであって、確かにキャッシュレス社会の実現という物差しからみれば“原因”かも知れませんが、外からみれば“それがあるから日本らしい”というものにあたるのではないかというものです。
また効果にあたる“人手不足の解消”については、それならば外国からの労働者の流入を盛んにして、逆に日本の流通システムでマンパワーがいかに活かされているかを世界に紹介すればよいと思えます。決済に関係する膨大な無駄とありますが、畢竟はこの部分が“膨大なIoTに代わるだけのこと”で、このジャンルに膨大な労働が発生するというトレードオフに過ぎません。
技術に押し流されるだけでは、レーゾンデートルは確率されない
私は技術の進歩を否定するわけではありませんが、進めるとしても、その前提となるコンセプトが付け焼刃的であったり、単なるお題目であるなら、必ずその運営に支障をきたしてくることを懸念しているのです。これはこれまで役人主導で行われてきた政策に、数限りないそうした過ちが繰り返されてきたことからも十分に留意が必要なことであると考えます。
“日本では信頼される紙幣や硬貨が流通し、買い物をするとき、かつてそうであったように、売り手と買い手が明るい会話ができる国”というのであれば、それは特別なものであるし、日本に来た外国人就業者が、日本の高い接客術などを覚えて本国に持ち帰り“日本式営業方法”が世界に広まるという選択肢も、そうそう捨てたものではないでしょう。