新下流層とマックジョブ
ネットや雑誌などでは、この話題が上らない日はありません。この変化に先立って、この10年で世界中で富の格差が一気に広がりました。且つては世界はITの進化によって、2020年以降はさらにこの差が広がって、先進国では“新下流層(New Downstream)というのが生まれると言われていました。つまり「新しい経済格差」ができるという見方です。ところがAIが現れて、この概念は軌道修正どころか、180度修正が必要になりました。これまで新下流層の上部で安泰であると考えられていた知識労働者(ナレッジワーカー)の仕事も、このAIが奪うことになり、2030年には中流階級が消滅して、巨大な新下流層が急増するという新しい未来像が台頭してきました。
しかしこの新下流層はいずれ、旧下流層との境目が不明確になってゆきます。確かに“そもそも下流層であった層”と“AIのせいで、それまで頭脳労働であったのに、マックジョブ化した下流層”とは、最初は仕事の面でも、生活、経験の面でも違うかもしれません。しかしAIによってマックジョブ化した仕事はすでに頭脳労働ではないので、数年すれば巨大下流層になります。その判断基準は要するに“収入”ということになるのでしょう。
マックジョブ(英語:McJob)とは、低地位・低賃金・単調・重労働(長時間労働、過剰な疲労を伴う労働)の職種を賎しめて言う語。代表例として、ファーストフード店のように、独創性が無く、機械的な動作を繰り返すだけの職種を指す。「マック」はハンバーガーショップのマクドナルドに因む。(Wikipediaより)
AIに過度な期待を抱く事の危険性
AIの可能性については、その上をみれば果てしない可能性に満ちています。今後、数年の間には様々なAIが登場し、一見私たちの仕事を奪ってゆくと見えます。しかし現実的にはその大部分は、とてもAIとは名ばかりの単なるパソコンソフトであることも少なくありません。
また“○○の仕事がなくなる”と言っても、それはある特定の偏狭なジャンルに限られ、市場全体では逆に、これからも広がるという事業もあります。例えば清掃業務はAIやIoT化ですぐにでもなくなると言われています。確かにモールや駅など広くて、大型清掃機械を導入すれば人件費も大幅にカットできる場所ではAI機器が普及されるでしょう。しかし一旦普及してしまえば、現在の機械の稼働中断率では通用しませんし、また清掃業の範囲の観点でみると、今後、個人の家や特別な美術品、或いは蔵や納屋などの整理、清掃などは、機会の広がりとともに需要は伸びるでしょうから、それ自体はAI化するほどのメリットはないので安定するとも考えられます。
またAIの構築にはかなりの手間も暇もかかります。AIを作成するAIがあると言っても、それに見合ったメリットがなければ、導入には至りません。
「AIベンチャーの90%は詐欺」の根拠
名ばかりのAIというので思い出しますが、AIの技術者に話を聞くと多くが「現在あるAIベンチャーの90%は詐欺」と口を揃えたように言う事です。その理由を聞くとあらかた次のような話をされます。
だいたいが、AIによるものづくりを実現するためには、事業現場をいったん白紙化して、ゼロから再構築するくらいの仕組みの変換が求められます。要するにフルモデルチェンジの必要性です。いわゆる「体系化したAIのフレームワークを活用する」ということです。その際の重要な課題は「データー収集」にあります。
通常、生産機械はAI化されていない段階では、エンジニアが最適なプログラムを組みます。それでその機械が正常に稼働すればよいのですが、問題はその程度のレベルで製造した製品は、売り物レベルには到達していないので、何度も微調整を繰り返さなければ精度が高まりません。通常、こうしたシステム下で人が関わる事ができるのはAI生産機械にデーターを与えるだけですから、少しでも多くのデーター量を加味して行かなくてはなりません。こうした大量のデーターの中から、パターンや規則性を見い出すのが「AIが学習している」という段階なので、なんでもすぐにできると謡うようなAIなどあり得ないという現実無視に問題があります。
ほんとうにAIが効果的なのは、企業経営やコンサルティング、裁判、警察、医療の現場、職人技
AIがその必要度で最も効果のあるとされる業種は、今は“残る仕事”とされているものが多いのも事実です。
例えば企業経営や裁判、警察業務などは、AIでは無理だと言われていますが、果たして本当でしょうか。
必要度や、システムを考えてみれば、最も効果的なものです。おそらく公務員の仕事も90%以上がそれにあたるでしょう。しかしそれが言われないのは、それらの仕事は現在は安定した高額所得者(既得権益者)と直結するからで、特に役所や官僚などは自らの影響力を削がれるため、必死に抵抗するでしょう。その為には、“危険回避のために、○○のAI導入には、資格所得者が必要”などという官僚的なルールを作ることになるでしょう。
それらは一時凌ぎに過ぎません。世界中の国々では、日本のような既得権益者保護の動きは比較的少ないので、平気でこれらの業種のAI化が進むでしょう。今の日本がすでにそうですが、あくまで既得権益者と官僚組織保護を優先していれば、日本の国力は一気に萎んでしまうことになります。
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「母をたずねてインドネシア、フィリピンへ…」にならないために
エドモンド・デ・アミーチスの書いた「母をたずねて三千里」は、主人公のマルコが”貧しいイタリアのジェノバ”から、”裕福なアルゼンチンのブエノスアイレス”まで出稼ぎに行った母に会いに行くという物語です。今読むと両方の都市の経済環境が、僅か100年ほどの間に逆転しているのに驚かされます。
これを単なる物語と、遠い昔の話と聞き流せるでしょうか。これは歴史に記された、数多の事例-時代の潮流に逆らった国は、それまでどれだけ繁栄していても、半世紀から少なくとも1世紀もあれば、最貧国になる-の一例に過ぎないものです。忘れてはなりません。日本も今から70年ほど前には、理由はどうあれ、世界の最貧国であったのです。
そうならないため、道を誤らないようにするため、それでなくても、潮流を読み誤り始めている現在の日本では、AIの扱いを過小にも過大にも評価することのないよう、大鉈を振るう時期だと言えるでしょう。