歴史を偽る国は歴史に復讐される-香港民主化デモに始まるアジア勢力図の変化

香港のデモと区議会議員選挙にみる民衆の気骨

日本で初めての選挙は1890年(明治23年)の衆議院議員選挙でした。前年に発布された大日本帝国憲法に則したもので、選挙権は国税を15円、今の貨幣価値に置き換えると70万円くらい納めている人のみに限定されていました。後に選挙権が25歳以上の男性すべてに認められたのは35年後、女性を含めてすべての20歳以上の国民に認められるのには、さらに20年が必要となりました。
日本ではその事実から、やはりまともな選挙制度になるのには半世紀は必要だったのだと、否定的な言論が主流ですが、実は日本の選挙制度が、本当に純粋な思想の下に実施されたのは最初の2~3度だけであり、その後には現在に通じる利権選挙の構図ができあがってきました。民主主義下の選挙とは、“誰に投票しても同じ”ではなく、強大な力に直結しています。

2019年6月16日、香港の人々は、強大で非情な中華人民共和国の人権弾圧に立ち上がりました。30年前の6月4日、天安門で、やはり自由と民主主義を掲げて立ち上がった若者が数千人規模で殺害されましたが、その記憶を跳ねのけた香港の民衆、とりわけ学生の力は、正の影響を拡大したと言えます。

天安門事件から30年 中国が忘れた映像

 

香港では完全な自由選挙は区議会議員選挙しかありません。行政長官は事実上「北京政府の指名」で決まりますし、日本の国会にあたる立法会も、香港市民は「半分の議席」しか選べないからです。しかし区議会議員選挙だけは香港に許された完全な直接民主選挙です。

結局11月24日の、香港区議会議員選挙の当日、投票所には区議選史上初めてといえる有権者の長い列ができ、結果は投票率71%と香港の中国返還以来最高を記録、親中派が「59議席」まで激減し、民主派の議席が80%を超える「388議席」となり、地滑り的大勝利を果たしました。

しかしこれは選挙がどうのという前に、まさに香港市民の命がけの気骨の問題です。軽々に“命がけ”と言う言葉を多用する輩は少なくありませんが、香港市民、学生の6・16「200万人デモ」の凄さや、その後の警察との攻防は、現代の人権と民主主義を守る戦いの重要性と市民のプライドを世界に見せつけています。

世界に拡大する“香港現象”

このプライドを守るための戦いは世界に広がっています。その後の台湾総選挙で世界は蔡英文総統の奇跡的ともいえる大躍進を見ます。

蔡総統、「中国は台湾を尊重すべき」 BBC単独会見
2020年01月15日
ジョン・サドワース、BBCニュース(台北)

中国に強硬な姿勢をとっている台湾の蔡英文総統(63)は、中国は「現実を直視」して台湾を「尊重」する必要があると、BBCの単独インタビューで述べた。
蔡総統は11日に投開票が行われた総統選挙で、中国政府からの高まる脅威を重点においた選挙戦を展開。地すべり的勝利を収め、再選を果たした。
中国共産党は長年、台湾での主権を主張。必要であれば武力行使をする権限があるとしている。
蔡総統は再選後初となるBBCのインタビューに応じ、自治権を有する台湾の主権をめぐり、交渉の可能性がないことは疑いの余地がないと強調した。
「我々には、自分たちが独立主権国家だと宣言する必要性はない。(中略)我々はすでに独立主権国家あり、我々はこの国を中華民国、台湾と呼んでいる」

こうした蔡総統の主張は、香港と同様に「一国二制度」の下で台湾を治めたい中国政府を激高させている。
総統選の対立候補だった最大野党・国民党の韓国瑜氏(62)は、この「一国二制度」を支持している。
国民党のルーツは、中国の国共内戦で敗北した中国国民党。彼らは台湾へと逃れた後も、台湾を中国大陸の一部だと捉えていた。
近年、「一国二制度」を支持する台湾人は、この構想は有用な歩み寄りになっていると主張している。
中国は台湾と経済的関係を構築する前提条件として、「一国二制度」の受け入れを要求している。そうすることで、事実上の独立国家としての存続を明白に否認することになるからだ。
しかし、蔡総統が今回の勝利によって、「一国二制度」構想や、台湾の実際の立ち位置を曖昧にすることへの欲求が、台湾でどれほど少ないのか証明されたと考えていることは明白だ。
「状況は変わった。(中略)この曖昧さは、もはや本来意図されていた目的を果たすことができなくなっている」と蔡総統は言う。

(英語記事 China needs to show us respect – Taiwan president 一部抜粋)

これによって台湾も中国に歴史的なNOを突きつけました。同様なことは、あのイランでも起こりました。この間までアメリカとの戦いに団結していたかに見えていましたが、民間航空機の誤爆撃で立ち上がったのはイランの女性たちでした。テヘランなどの反政府デモの映像には、これまでみたことのない女性たちの姿が映し出されています。彼女たちは自国の指導者の人権を軽視する行動に、はやり命がけの反旗を翻しまたのです。

“誤撃墜”に「恥を知れ」イランで指導者批判のデモ

実は、これらの流れには、アメリカのトランプ大統領の対中戦略や外交政策の見直しや巧みさが大きいのですが、それでも香港、台湾、イランの人々の勇気ある行動に、私たちは力を与えてもらったように感じます。

 

アメリカ「香港人権法案」、トランプ大統領が署名し成立
米ホワイトハウスは27日、トランプ大統領が「香港人権・民主主義法案」に署名し、成立したと発表した。法案は、香港に認められてきた「高度な自治」が機能しているかどうかを毎年検証するよう米政府に義務付けるもので、20日に議会を通過した。

 

何もしない日本 そして4月には習近平国家主席が国賓としての来日

この香港の民主化デモは、直接・間接的に日本にとっても大きな追い風になっています。しかし、今日に至るまで日本政府も国会も支援決議も出さず、ただ傍観を決め込んでいるように見えます。日頃、人権でうるさいメディアも関連団体も、アリバイ程度の対応で基本、知らん顔です。日本のメディアが批判の標的にしているトランプ大統領のアメリカでは、早々に香港の民主運動支援の声明を出し、ウイグルでの人権弾圧に対する非難声明を出すだけではなく、香港人権民主法を成立させたのとは対照的でした。

中国が怖くて何もできない日本。そこには且つてヴェルサイユ会議で人種差別撤廃を訴えた日本の面影はありません。そんな中、4月には習近平・中国国家主席が日本の国賓として来日します。それはつまるところ、両陛下と習近平の写真が世界に向けて発信されることを意味します。香港の若者から端を発した反人権弾圧の意志の波紋が広がる中で、チベットやウィグルなどで、人権弾圧を繰り返している国家の元首が、こと日本に対して外交の勝利のような態度をとるのは目に見えているように感じます。

 

30年前の天安門事件の時も同じでした。日本は「天皇訪中」という考えられないレベルの助け舟をだして、中国の非人道、非人権の片棒を担ぎました。その結果、中国は各国からの経済制裁の影響を最小限に抑えることができましたが、おかげで彼の国は周辺国と組んで、日本への思想、経済侵略を着々と進めています。安倍政権には何か策があるのだと信じたいのですが、いまのところその兆候は見られていません。いつになったら中国からの無理難題に対して、薄ら作り笑いを浮かべることのない日本に生まれ変わることができるのでしょうか。ペマ・ギャルポ | 一般社団法人 アジア自由民主連帯協議会

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