ネットにショップを上げても、収益化、効率化されるわけではない

地方の企業や事業組合などからのご依頼で経営相談をうけることがありますが、検証希望の項目には必ず“ネットにショップを掲載した時の収益モデル”なるものがあります。先日もある地方の果物業組合から、ご依頼がありました。そこは地方の果物の生産農園の集まりで、販売方法は農園での販売と、国道沿いの直営販売所の2箇所。もちろん電話での発送も受け付けています。しかしピークシーズンは家族経営で休む暇も少なく、客あしらいに大変な手間をとられるなどの問題があるとのことで、最初からネット販売を前提としているようなご相談内容でした。

ネットに載せて、得する人、損する人

もちろん手を抜くというようなことではありません。最初に集まって頂いた時も、参加率100%。皆さん事前の勉強もされており、真剣さが伝わってきました。その成果でしょうか、12すべての農家がポータルサイトに出店したいという点で共通していました。しかし、私のお答えは少し方向性が違っていて、皆さんも多少戸惑いを受けておられるようでした。私の意見はこうです。

確かにネット上に店舗を持てば、多くの方の目に晒されますし、一見客あしらいなどの“手間”も緩和されるように思えます。しかし果たして、そんな効果は継続されるものでしょうか。本当に“手間”は省かれるのでしょうか。ほんとうにそれは省略してもよい“手間”でしょうか。都市部で、販売される商品の特徴が、それほど他と変わりのないものであれば、効果もあるでしょう。しかし雨後の竹の子のように乱立されるネットサイトが果たして本当に効果的と言えるでしょうか。また人件費を含めての費用対効果があるのでしょうか。そして現実問題として、平均的なネットショップは果たして儲かっているのでしょうか。

ここまで書けば、このブログの読者は気づかれると思いますが、ネット販売のジャンルでは、ごく僅かな得する人と、ほとんど全ての損する人がいます。前者はポータルサイトの運営者に他なりません。そして、ごく一部の“うまくいった組”でしょう。しかしそれとて継続が約束されたものではないし、なにより99%以上の後者が“損をしている”事実からは目を背けることはできないでしょう。

都心部と地方の違いが顕在化してきた

最近特に、ネットに出店する都心部と地方のショップの間で、こうしたネット効果の差異が顕在化してきています。分かり易く言えば、これまででも、都心部で出店されるサイトの販売傾向と、地方のものの特徴や経過に大差があったのですが、最近ではその乖離が著しく顕著になってきたということです。
これはもっと丁寧に言えば、これまでネットショップ自体の明暗などポータルサイトの運営者は気にしていませんから、都市部と地方を分けて調査することをしてきていませんから、むしろ最近の発見と言うべきかも知れませんし、都心部でもほとんどのショップの採算がとれていない現実の前では、そもそも論としてネットサイトの出店者は儲からない仕組みであることを露呈したのかも知れません。

地方には地方に合致したやり方がある

それを前提に、さきほどの果物組合の方の話に戻りますが、私はそこでポータルサイトへの参画を考え直すことを提案しました。その理由は以下の通りです。まずこれら、ほとんどの果物農家では祖父の代から今のやり方でやっていること。お客様の多くはやはり親、祖父の代からのお客さんが多くを占めていること。そこで販売されている果物自体、ネームバリューは乏しいが、とても美味しいことが前提となります。
その上で、ネットなどに頼ってしまうと、一時的に“手間”は減るように思えます。うまくゆけば今より高い収益が上がるかも知れません。しかしはっきり言って、これまで農園事業を支えてくれていた、地方の需要がしっかりあるうえでの売上ですので、近々に逆手間が増えてきます。もしこれまで500ケース売れていたところにネットショップで300ケースの注文が入った場合、果たして800ケースの手配が可能でしょうか。ネットでは受注後のキャンセルはご法度ですから、無理にでもネットに商品を回す必要があります。そうなれば頑張って100ケース生産を増やしても200ケース分の、地域需要を反故にしなければなりません。そのリスクを考えているでしょうか。

また、ネットの顧客は、生産者を知りませんし、生産者もネット顧客を知らないのですから、所詮値段勝負に終わり、逆に手間も経費もかかってきます。これはこれまでの多くのネットショップが経験している“鉄板傾向”ですが、初めて進出する方にはあまり知られていない事です。

地方の生産業者は、地方の生き方があります。そしてネットの運営実績も見ても、昨今では、あまり役に立たないことが、はっきりし始めています。得するのはポータルサイトを運営している業者だけという事実を忘れてはなりません。地方は地方の生き方を見つけ出すのが重要なのです。

想定通りの道筋。儲かるIT。時が経てば負担だけが増える出店業者

結局、たっての希望で12のうち10の農園がポータルサイトへ出店することになりました。不本意ではありますが、クライアントの御要望なので、私達も、寝る間も削って、かなり充実したサイトを製作しました。間に合わないところは、サイト制作を他に依頼して、ようやく一斉オープンしました。3か月経って、載せる果物も変わって来ましたが、先取りをして美しい写真を掲載して、少しずつ注文も増えてきました。しかし皆が口を揃えるのは、これまでのお得意様へのフォローが疎かになっていると感じていることです。このまま進めて行けば、これまで多くのネットショップが辿ったのと同じコースになるのは目に見えています。

申し訳ないですが、私たちは果物の1個も販売していませんので、“舞台”を用意するだけで、しっかり収益を上げられています。しかし農園の側では、負担が増えることになるのは明白です。因みに最近の台風の被害で、農園の生産量の20%が無駄になりました。当然、ネット注文に時間も手間も、なにより生産物がとられて路面店を閉鎖することになりました。しかし私達コンサルティングは、これまでそんなケースを嫌と言うほど見て来ているのです。

今ほど都市部と地方の違いが顕在化している中で、これ以上のネットへの依存は、特に地方のショップではリスクが高くなる一方だと言えます。業績が苦しくなっているのは、商売の仕方だけのせいではありません。地方の地方ならではの取り組みを進めることで、好転する例が逆に増えてきています。安易なネットサイト依存は大変危険であることを学んでいただきたいと思います。

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