いまIT企業が危ない 企業組織の崩壊 

15年ほど前のことですが、東京でIT関連企業の経営者達と小さなセッションを始めました。当時は1990年半ばのITバブルが一旦整理されたあと、本格的なIT技術開発が急速に広がり始めていましたが、まだ確信が持てない頃でした。実際、IT企業を対象とした研修会も頻繁に開かれていましたが、このセッションは、あの頃盛んに開催されていた“IT技術の勉強会”ではなく、“IT企業の経営の先読みの勉強会”でしたから、華々しさもなく、大変地味な集まりで、最初の4~5年はメンバーも多い時でも10名ほどの、ほとんど影響力などない集まりでした。

風向きが変わったのが2008年。あのリーマンショックが起こる半年前から同社の経営破綻のシミュレーションを取り上げていたことが小さな口コミとなって、多少仲間も増え始めましたが、常にクオリティの高いセッションを目標に続けてきました。会の名称も“THE SESSION”からWICOM(WORKSHOP OF IT COMPANY MANAGEMENT)に変えましたが、活動の中身は、IT企業の経営者の“経営の先読み”の勉強会という核はそのままです。

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IT企業にもその兆候「いつかきた、あの道シンドローム」

最近ではIT企業の経営内容も非常に高度化、洗練化されてきましたので、さすがに15年ほど前の“野武士”の雰囲気を持つ経営者は少なくなってきました。ベンチャーに至っては業績は別として、資金の潤沢さは驚異的で、ある程度のレベルがあれば突然5億~10億円の投資が入ることも珍しくはありませんので、小さな会社でも経営体制は真っ先に構築されるものと認識されていますし、経営者のスタンスも、経理部門の重要度を認識しているという意味では、かなりしっかりしています。
WICOMでも「私の会社は技術と運営については自信がある」と明言される経営者が多く、また実際にそう言うだけの仕組みは整っているようです。しかし、だからこそ今、私が感じるのは「IT企業経営の新しい危機」としての「いつかきた あの道シンドローム」です。

組織が持つ「負の宿命」と、IT業界が必然的に陥る“諸刃の剣”

組織には必ず陥る「負の宿命」があります。どのような組織も、それを構成するには明確な目的があります。しかし、組織にどのような目的があっても、それが発足すれば、同時にそれは“別の組織自身の目標”が生まれます。これが第一の負の宿命である「組織の構成員の所属意識を満足させる」ことです。例えばその組織が目的を達成させるには構成員が、そこで働いていることに満足することが必須ですので、必ず“居心地の良い環境”が作られます。このことは、公務員や大企業を見れば一目瞭然です。IT企業は結果を重視するから、その点の不安はないと言いますが、SE不足で優秀な人材を登用するために破格の待遇が提供されている今のIT企業の現状を見ているだけでも、今後益々巧妙に、且つ組織的にIT企業がこの宿命に適合してゆく可能性は高いと言えます。

次の宿命は「環境に対して過剰なレベルで適合してしまう」ことです。これは極めて単純に表現すると「ある時代や社会、社会組織や集団に適合した環境下に陥ると、変化を良しとしない組織になる」ことです。またその組織がなんらかの成功を経験した場合、その成功度合いが強いほど、“蜜の味”が刷り込まれてしまい、抜け出すことはできなくなるのも、負の宿命と言えるでしょう。

“IT業界好事魔多し”状態からの脱皮が急務

しかし特に最近強く感じるのは、これが過去の工業化社会に適合したのち、デフレスパイラルに陥り、もがき苦しんでいる諸々の企業ではなく、現在のIT企業にこそ顕著な実例ではないかと言う事です。かつてのIT企業では欧米やアジアに追い付くために必死で、組織構成員の所属意識など考慮する必要はありませんでした。また成功体験や環境の過剰適合もそれほど考慮すべきものではありませんでした。しかしSE不足となった現在、従業員の所属意識は最優先課題となり、経営者はそれに拘らざるを得ません。また、FAGAを活用する形で適度な収益をあげればよい環境の中で、“美味しい立ち位置”を確保してしまったので、無意識にこれに埋没してゆくのではないかという危機感です。

世界で日本ほど、独特な経済環境を持つ国はありません。その環境の中で、“いつか来た、あの道”的な失敗を繰り返すことになるかは、これからの日本のIT社会化が過ちなく変化してゆけるかにかかっているかと思います。特に現在、安定的な“身分”を担保しているIT企業、IT関連企業には、足元から緩む可能性が高まっていることに注意が必要だと言えるでしょう。

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