空想社会小説 もうひとつの大阪(大阪10大名物が実現した現在)

FANTASY SOCIAL NOVEL 「もうひとつの大阪 ― 改革が実現した現在」

僕はネットで知り合ったイギリス人のトーマスと初めて会う事になった。東京に住んでいる僕は、しっかり案内しようと張り切っていたのだが、トーマスは“日本に行くなら絶対OSAKAに行きたい”と固辞したので、僕も初めてOSAKAに行く事になった。

①東京-大阪 ドル箱路線にも競争原理

驚く事に、羽田から関空まではLCCのような格安路線があった。もちろんLCCはこれまでもあったが、この新航空サービス「エア・ワープ」はかなり毛色が違う。空港の端しか使わせてもらえないのだが、それを利用して無料立体パーキングを完備して集客。専用サイトからの会員制であったり、プライバシー情報の提供などが求められるのだが、それが逆に乗客の質の安心感にも繋がっているのだそうだ。でも人気の理由はとにかくいつも安い。片道5,000円で1日40便が行き来している。かつては伊丹-羽田の航空機も、新大阪-東京の新幹線も、超ドル箱路線であって、独占的利益を得てたが、この新路線の影響でかなりの客を取られてしまっているらしい。それは当然のことかも知れない。座席はまったく狭くないし、当初外国人機長だからといって不安視されたが、操縦は完璧で快適のひとことだ。機体は小さいが40便もあるから2~3機乗り過ごしても問題はない。一時テレビでもこの新路線については様々な報道があって、どちらかと言えば否定的なものだった。しかし最終的には民意が優ったのだろう。特に新幹線を運営するJR東海は、度重なる車中事故が起きていたが、安全対策に対してを無視するような姿勢が批判の対象ともなったらしい。でもこの競争、利用者からは好評で、価格も時間により強弱がつき、また封印されていた食堂車も復活、“新幹線も最近サービスが良くなった”と好評のようだ。

②2キロプールによる世界遠泳大会に押し寄せる外国人観光客

トーマスの乗る飛行機は30分遅れで到着した。これまでネット上の友達だったが、会ってみても気が合いそうで一安心。彼に「まだ10時、まずはどこに行きますか」と聞くと、まずは明後日に行われる「第2回2キロ世界遠泳大会」のエントリーの期限が迫っているので、舞洲に行きたいとのことだった。世界遠泳大会は去年ニュースで見たような気がする。道頓堀につくられた2キロプールで、個人・男女ペア・5人団体などのジャンルがあり、競技もタイム・耐久・フィギャーなどあって、かなり面白そうだった。聞くところでは最初、日本国内ではスポンサーがつかなかったらしいが、外国の資本、特にエックススポーツなどに投資を惜しまない企業から全面的なオファーがあったそうで、これも日本のテレビではほとんど報道されなかったのが、友人からYouTubeで面白いのをやってるよと教えてもらって観たのだが、結構やみつきになったやつだ。

③「国際特区ミレニアム」にはUBERや200キロタクシーなどで高速移動

舞洲まではUBERが使える。規制だらけの日本で唯一、世界一の規模でUBERが利用できるのが、関空と舞洲を一体開発してできた「国際特区ミレニアム」だ。ここは現在の「出島」だ。規制だらけの日本で中央官僚の手が届かない自治区で、ネットでは「アンタッチャブル・ザシティ」と呼ばれているから、メディアも官僚の睨みを恐れてあまり取り上げない。もちろんUBERだけでなく、高速道路でも200キロタクシーが話題で、高級外車が10分で関空-舞洲を繋いでいるし、今は空飛ぶタクシーも検証中のようだ。

初めて見る「国際特区ミレニアム」は想像を絶するものだった。アメリカやヨーロッパ並みのセキュリティチェックもあるし、顔認識技術などもあちこち配備されているのだろう。シビック・センターが入っているビルに入ろうとしたら、どこからともなく僕を呼ぶ声が聞こえて、本日はお越しいただきありがとうございますという声が聞こえた。もちろん僕にしか聞こえない。トーマスには英語で聞こえたらしく「世界遠泳のエントリーは14階イースト24です」と入口で聞こえてきたそうだ。

④桁違いの発想 ナレッジキャピタルから観られる桜の山の絶景

手続きが終わった後、トーマスと僕はチェックインを済ます為、大阪駅に隣接しているホテルに直行した。駅北口にあるナレッジキャピタルは既に未来都市の風だった。彼がチェックインした高層ホテルの部屋からは北ヤードのやはり高層ビルが見れるのだが、その屋上は東京ドーム2個分の空中緑地が見ることができ、今は季節柄、吉野山の桜の風景を再現している。

トーマスは大阪駅の「ネストカフェ」で食事をしようと誘ってくれた。大阪駅は巨大な銀傘がトレードマークなのだが、その銀傘、大屋根の下には20店の空中カフェが作られている。まるで鳥の巣のようだ。宙に浮いたようなカフェからは真下に巨大な大阪駅が見下ろすことができる。こんな景色、見たことがない。ほとんどのカフェは鉄道ファンらしいショルダーバックにカメラ姿、中高年の自好奇心に溢れた女性のグループ、世界中からの旅行者で溢れていた。

⑤大阪駅のネストカフェ 阿倍野タワーの驚愕カフェで心底驚愕を経験

トーマスはよほど高いところが好きだと思える。夜には阿倍野地区に造られている日本で最も背の高い商業施設「阿倍野タワー」の屋上エリアにある「驚愕カフェ」に行って、ディナーをとることになった。事前のリサーチが完璧だ。ここも驚くような”仕掛け”に溢れている。阿倍野タワーを運営している近畿日本鉄道株式会社というところは、どちらかと言えば地方路線を得意とする鉄道会社なのだが、単なる”高層を競う”ビルではない。屋上には本格的な天文台があったり、360度回転するスマートコースターなどがある。地上6階からは「地底冒険ブース」があって、このビルの基礎の底の底まで一望できる”地底探検コースター”がある。こうなるともう百貨店ではなくてテーマパークだ。屋上に上がるとどこが本当の頂上か分からないほど。それでも”展望ミュージアム”では、世界中の名画が陶板で再現され、陳列しているが、そこからの景色は大阪どころか関西を一望できるロケーション。  さてお目当ての「驚愕カフェ」。その最上階から何と“外にはみ出したスペースにガラス張りの一画が数店舗あって、足もとから下を見ることができる。中には動く店舗や、バルコニーカフェもあるようで、どこに行っても驚愕の一言だった。

⑥御堂筋のデザインストリート化 9つのテーマゾーンで商業エリアを越える集客

その後も、トーマスと僕は大阪を堪能した。翌日は御堂筋ストリート。銀座のようなものを想像していたが、高度にデザインストリート化している。「現代アーティストエリア」は周りのビルなども美術館のようなものが多く、また絵画や彫刻など世界中のアートが時代や人種を越えて陳列されている。「最先端映像エリア」はすでにそこはどこか分からなくなるほどの映像エリア。宇宙や深海などのシチュエーションを歩いているだけで堪能できるし、日本ではあまり評価されていないホノグラムも豊富。ホノグラムと言っても、僕の知ってる小さなものでなく、一番大きいのは路線バスくらいの大きさが浮き上がってくるスケール。ここで今日はマイケルジャクソンとフレッドアステアのダンスコラボ映像が上映されていた。これだけでも1日潰すことができる。「日本庭園エリア」はそこだけ古き良き日本の風景。周りのビルにも強化木造建築が目立つ。日頃あまり日本文化に興味を持たない僕ですら、その美しさの深さに身震いした。御堂筋にはこのほか、実に9つのテーマゾーンがあり、楽しませてくれる。もうこうなると御堂筋はそれだけで未来都市と言える。

⑦度肝を抜かれた「ヘクタール・ビジョン」。すでにeゲームのメッカとなった「エレクトロニック・ゲームセンタ-」

翌日、遠泳大会に参加したトーマスだが、残念ながら上位入賞には至らなかった。しかしちょっとイケメンのトーマスには、世界中の映像配信サイトを見た女性からのツイットやLINEが多数寄せられていた。大会は世界中から注目されていていて、外国のメディアのクルーが目立った。今年は空中スタジオが会場上空に飛び交い、大変話題となっていたようだ。夜は一転、大阪府堺市に行く。実はトーマスが好きなロックグループ”ファイナル・デスティネーション”のコンサート映像のパブリックビューイングがあるのだそうだ。ところが行って驚いた。画面の大きさ、1万平方メートルあるのだそうだ。その名も「ヘクタール・ビジョン」。僕はよくは知らないアーティストだったが、このスクリーンの大きさには圧倒される。ロックの音響は体全体にガンガンくるのだが、不思議なことに開場を一歩でると、ほとんど聞こえない。凄い技術だ。僕が気に入ったのは最初。お気に入りの女優さんが出ている清涼飲料水のCMが流れたが、その巨大さにただただ感動。明後日はエンジェルスの大谷君の登板予定試合や、夏には甲子園の野球大会などもあるそうだ。

国際都市では「エレクトロニック・ゲームセンター」に行く。そのスケールや施設の充実さには目を疑う。その日だけでも8つのeゲームの国際大会が開かれている。その内のひとつ、人気のサッカーゲーム”エクストリーム・プレイ・ワールドカップ”には、会場内に6000人収容のバトルスタジアムが作られていて、さっきまでセミファイナル”アメリカVs日本”がやっていたようだ。しかしここが凄いのはそれだけじゃない。センター内にはゲーム制作の会社やeゲームプレイヤーを数百人規模で抱えるプロのeゲームチームもある。またeゲームの専用チャンネルを持ったテレビ局も複数スタジオを持っているようだ。しかしこれが実現するまでには紆余曲折があったようだ。以前買った「大阪エレクトロニック・ゲームセンターの闘い」という本に詳細が書かれているが、ゲームなどの施設を大々的に作るなどふざけているというような世論があったり、ゲーム依存症を増やすと反対運動が盛んになったようだが、結局は気に入らない橋下市長を攻撃するのが目的だったようだ。

⑧巨大屋根付き大歩道橋で大阪の美しさを再確認

トーマスが帰る最後の日の前日。僕らは大阪城公園と天満公園を繋げる大歩道橋に行く事にした。歩道橋と言ってもただのスケールの大きな橋ではない、すべて強化木製であるのだがスイスのカペル橋を100倍にしたイメージが良いかもしれない。巨大な歩道橋は全て屋根付きであり、歩道幅の2割くらいが商業施設となっている。美しい橋で楽しいお店が並んでいるだけでなく、大阪城や水の都と呼ばれた大阪の街が堪能できる。夜景もまた格段のものだった。

空港に送りに行く時、舞洲のトラベラーズセンターに立ち寄る。お土産も荷物もここで預けると航空便に合わせて、希望すれば自宅に届く。日本の宅配会社が世界中に業務を拡大しているそうだ。もうすぐこの場所にはIRができるそうだが、今でもこれなのだから、この国際都市はどこまで発展するのだろう。

空港までは予約していた超高速スーパーカータクシーサービスを利用する。僕はこの経験をトーマスにプレゼントしたくて、あのフェラーリタクシーを予約していた。時速200キロ以上は出せないらしいが、250キロは出ていたように思える。あっと言う間だ。こんな経験は日本では交通刑務所に行く気でないとできない。トーマスはずっと奇声をあげていた。                  空港。トーマスは手ぶらで税関を抜けて帰国の途についた。なるほど荷物がなければ税関チェックもなくスムースだ。僕は僕でLCCで羽田まで。時間の関係で5000円が10%オフだった。同じ機内でトーマスとチャットしている間に羽田に着いた。かくしてトーマスと僕の大阪旅は終わった。東京についてからのアクセスがかなり不便に思えた…。(THE END)

これは完全にフィクションです。しかし可能であったフィクションです。2012年1月大阪では「大阪10大名物構想」が発表されました。それが実現していれば、あれから6年後の大阪で、このような情景が見られたかも知れません。しかしまだインバウンド景気も経験していなかった日本では、また大阪ではこれらが否定されました。多くの人が「絶対無理」だと連呼しました。人の意識や状況判断など全く役に立ちません。そう言えばこの頃、大阪市長の橋下徹氏は今の吹田の万博後に「パラマウントスタジオ大阪」を誘致しようとしましたが、反対の意見が相次ぎ、今は収益性も将来性もない、平々凡々としたアウトレットが出来ているにすぎません。

「馬鹿だな」と一笑するのはたやすいものです。しかし、その時代の空気を知らなければ、またなぜ人は判断を誤るのかのメカニズムを検証しないと、同じ過ちを日本人は犯し続けるでしょう。それでなくても日本人は、人の意見や、出どころ不明な情報であっても、いとも簡単に信じてしまい、且つ容易に受け売りする民族です。2012年時、橋下市長はこう言いました。「(大阪10大名物は)この中に1~2つでも実現できれば、将来に対する大変な飛躍となるだろう」。大阪10大名物で、実現したのは今のところゼロなのです。

 

 

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