日本から消えつつある質の文化とそれを破壊する者

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池波正太郎氏のエッセイから垣間見た生活的教養

作家の池波正太郎氏でしたか、銀座のクラブに行くと「テーブルの上には4つのグラスが並んだ」と書いています。グラスはそれぞれ形も用途も違っていて、ビールが飲みたいと思うと一番小さいグラスを手に取る。するとホステスさんが冷えたビールを注いでくれる。次に白ワインにしようと白ワイン用のグラスの淵に指を添えると、ワインクーラーから取り出して注がれる。ステム(グラスを持つ脚の部分)を持ち、その色や香り、もちろん味を堪能すると、次にはがっしりしたバカラのブランデイグラス…という具合です。若い、駆け出しのころの私はこれを読んだ時、これは贅沢を自慢したものではなく「価値の扱い方を知る知らないの知性、教養の違い」について書いてあると感じました。ところがそれからこれまで様々な方々、特に社会的地位の高い財界の名士や資産家、起業家の方々などと食事の場を持ちましたが、先のグラスの話のように食材や飲み物に合うような嗜好をみせられる方はほとんどいないばかりか、そのような知性や教養というものを嫌悪しているのではないかというような行動をする人もいました。

もう四半世紀以上前になりますが、ある大手麦芽飲料水メーカーの有名経営者が、20人くらいの食事会を閑静な料亭で主催されました。当然和室には掛け軸や生け花が…と思いきや、床の間から書院棚には新製品の麦芽飲料が並べられていたばかりか、窓から見えるはずの庭園にも大きな製品の看板が立てられていて、当然食卓には所狭しと製品が並んでいる始末でした。費用は向こう持ちだし、そもそも新製品の宣伝なので何をしても勝手なのかも知れませんが、料亭文化というものを全く解さない、無粋だなと感じたものです。

名前を買い取り市場を独占。国産ビールメーカーの寂しい発想

そして現在、その会社を始め日本の大手麦芽飲料企業は、バドワイザーやハイネケン、クアーズをはじめ、ありとあらゆる外国製ビール会社とライセンス契約をして、端的に言うと名前やパッケージデザインは外国製ビール会社でありながら、中身は国産品という文化破壊をしています。つまり「俺はオランダに行ってハイネケンの味を知ってから、日本で生活していてもハイネケンにはまっているよ」と言っている方は、オランダ産ではなく、国産企業のものを飲み続けているのです。これについては各社とも「製法や中身は“基本的に(?)外国産と同じです”」と説明しますが、そもそも水も材料も違っている上に、別の添加物を入れたものが同じであるわけがありませんし、もし同じであるならライセンス契約してもメリットはないでしょう。

また、日本のビールが世界のそれと違った発想の下に製造、販売されているのは周知されていることで、小麦麦芽とホイップ、水と最近では酵母でのみ造られるものが、日本では米・コーン(とうもろこし)・スターチ(澱粉)が普通に混ぜられています。これではそもそもビールとも呼べないものですが、それをいうのであれば、普通の瓶ビールを冷やすだけで生ビールといって販売する。要するに瓶も缶も生も、どれも同じものというような企業倫理であることに、私は強い憤りを感じるのですが、先の経営者の文化の質や教養に対する態度をみると、さもありなんと感じてしまいます。この間までインバウンドが日本国中を席捲していても、日本のビールの評価はまったく上がっていなかったことなどをみると、少なくとも外国の人にはその違いが分かっていたのでしょう。その意味でも日本人の質の文化が急速に廃れてきているのだと感じることが少なくありません。

気がつけば、質を気にしない文化後進国化

スマホで音楽を聴く若者は電車や街の雑踏の騒音の中であることに意を介しません。且つて貧乏であってもオーディオ機器や聞く環境にこだわった時代とは天地の差があります。人を招き入れることを前提としてた家屋には玄関や応接間がありましたが、自分達が生活する空間に必要な家具を並べるだけの倉庫化した今の家屋はその必要はなくなっています。食卓は一見豊かで、和洋中あらゆる食べ物が楽しめますが、そのほとんどはレトルトや冷凍など食品技術をフルに活用したものを選択する食文化で、そこに食の教養など入り込む隙はないのかもしれません。そしてそんな文化を日本の代表的企業は協力に加速しているのでしょう。

つまりは、日本人の生活に対する知性や教養など取るに足らないもので、容易に誤魔化せると同じ日本人が経営する企業が判断しているということでしょう。ある程度年嵩のある人であれば、比較する判断力も経験もあり、その良し悪しを判断できるでしょうが、この四半世紀に生まれた人達は、その親の世代を含めても、そのような知性というものを感じることがなくても仕方がないように思います。人間には「有り余るものを消費し、残り少ないものを大切にする」という優しい知恵があります。その意味では、今の若者は質の文化を見直してくれるのではないかと思います。しかし日本人が日本の質の文化を破壊してきたのかも知れない。そう考えると、ことの重要さに言葉を無くしてしまいます。

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