高い経験とスキルを持たれて退職。関係企業に再就職をされて、あとは悠々自適の生活が待っているような“現役引退者”が、何故か新しい職場で上手く行かず、相談に来られるケースが増えてきています。うまく行かない原因は、何か現場で揉め事が起きるような“物理的な”ものではなく、一種の疎外感を味わう“精神的な”の傾向があるようです。レライアンスで請けたケースを参考に、その変化と原因、対策についてお話ししようと思います。
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これまで聞いていた話と違っていた現実
大手建設会社を定年退職して関係企業に再就職をされましたが、あまりに先輩から聞いていた話と違っているのにショックを受けたという方(Aさん)がご相談に来られました。彼が聞いていた話と言うのは、給与の面でも、役職の点でも、仕事の待遇の面でも、かなり優遇されると思っていたようです。
事実、超がつくような大手企業や、天下りが禁止されているはずの官僚では未だに、考えられない特別待遇での再就職はありますし、通常の民間でもバブル時期だけでなく、近年までは、再就職先でも驚くような好待遇があった時期はありました。しかし最近では急速にその傾向は様変わりしているのが現実です。にも関わらず、かつてと同じ待遇で再就職できると考えていたところに彼の勘違いがありました。
安定したサラリーマン生活を送った人ほど理解できない「自分の価値」
Aさんが再就職先に”選んだ”のは、現役時代に何度も仕事をさせた中堅企業で、社長とはゴルフ友達でしたから、細かなことは決めずに初日を迎えました。
とりあえず社長に挨拶と思ったのですが、社長はなかなか会おうとはせず、またAさんの仕事も調査室長という名ばかりの仕事で、給与は現役からは少ないとは言え、そこそこの支給がありましたが、それも最初の3か月で、その後、能力給へと変更となり、そうなるとアルバイトに毛が生えた程度になる内容でした。それをAさんは不満に思い、ようやく”友人の”社長に問いただしましたが、社長からは「あなたは末端の従業員ですから、立場をわきまえてください」と言い放たれ、それを人事課に直訴したとたん調査室長も外され倉庫勤務にされてしまったそうで、その段階でご相談に来られました。Aさんの主張は、自分は現役時代大手ゼネコンで部長まで経験したのに、この待遇は我慢できないのだがというようなことでした。
実はこのような勘違いをされている定年退職者は後を絶ちません。自分の社会的価値を、現役時代の会社の役職と比較して考えていて、外部企業に再就職しても”自分は特権階級だ”という妄想から離れられないのです。私はAさんの認識の甘さを時間をかけて説明しましたが、氏は納得できず、再就職した会社を辞めて、他の下請け企業を廻りましたが、当然どこでも関係は築けません。今は無職ですが、充分な退職金があったので贅沢を言わなければ普通の老後は送ることはできるでしょう。しかし、かつての自信は影を潜めてしまい、彼のキャリアに対するプライドはズタズタになってしまいました。もし、最初から「自分の価値」の使い方を心得ていれば、相応な敬意や評価を受けることができ、豊かな気持ちで自らの人生を飾る事ができたのだと言えるでしょう。
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高いスキルを持っての再就職も好待遇には結びつかず
また、技術系の企業で専門スキルを持っていると自負していた方(Bさん)が、定年後、再雇用を断って、若い会社で能力を活かそうとした例もありました。その方は、自分の経験や知識を活かしてもらおうと職場に溶け込もうと努力したと言いますが、なんとなく経営者や職場のスタッフとの間に距離を感じ始めて、結局は孤立してしまったと感じていたようでした。しかし詳しく伺うと、その知識や情熱の伝え方に、やはり大きな勘違いがあることが判明しました。
Bさんの場合も、確かに技術系の企業の部門のトップとして大人数を率いていたようです、しかし技術系の会社の仕事というのはトップクラスと現場とは質的な違いがあります。何年もそんな状況でいると”組織の力を自分が作ったもの”と勘違いしてしまいます。特に現在のように技術が日々、飛躍的に進化している時代に、その勘違いは致命的です。
実際、Bさんは”自分の経験を役立ててほしい”と真摯に考えていたようですが、現場では氏の程度の知識はすでに過去のものに近く、その熱意は有難迷惑以外のなにものでもないと感じられていたようです。Bさんはその態度が、熱意の不足や怠慢に感じたようで、おりにつけ説教めいた言動となり、やがては自分の成功体験を滔々とするので総スカンをくってしまったようです。上司もBさんの扱いに困り、総務部預かりになった段階で、ご相談に来られました。
先の方の例も同様ですが、このような勘違いをしていては、折角の経験も活かせませんし、なにより自分が楽しくありません。私がBさんの主張に対して何が受け入れられなかったのかを説明したのに対して、氏は自分のスキルや過去の成功体験を繰り返すばかりで受け入れようとしません。最終的に、彼らが自らの“過ち”を理解するには、かなりの時間を要することになりました。Bさんはその後、退社したあとIT関係の会社を立ち上げました。私達はだいぶ引き留めたのですが、自分の力の過信と、周りを見返したいという気持ちが強く、聞く耳を持たず、結局2年して収益の見通しがつかなくなり廃業、昨年自宅で近所の子供対象にIT塾を開きましたが、採算ベースとは言えない状況のようです。やはり、こちらも「自分の価値の使いかた」を知っていれば、避けることのできたことです。
再就職者が職場で絶対にしてはいけないこと
どの方でも再就職する場合は、ある程度現場との関係をうまく行くように努力しようとしています。昔のように自分のキャリアを勲章のようにぶら下げている人はかなり減っているようには思います。しかしそれでも以前とは比較にならないほど現場とのトラブルが増えてきているのは、その努力が足りなかったり、的外れで有る場合が多いからだと言えます。
そこで、私達は“再就職の際に現場では絶対にしてはいけない10のこと”をご用意して、意識の改革をして頂いています。10の項目について、細かく説明して、正しく理解して頂ければ90%の確率で、事態が好転すると自負しているのですが、それでも10%の方は、自分の欠点や勘違いの修正ができずに困った状況から脱皮できずにいるのも事実ではあります。それだけ、60歳で自分の考えを変えることは難しい人がいるのかも知れません。
因みに“10の項目”の一部をご紹介しますと以下のようになります。
畢竟は、現場を支えて育てる引き立て役に徹することができるか否か
簡単な項目としては「前の職場の実績を持ち出さない」というのがあります。これすら、多くの方が最初は理解できずにいます。“自分の豊富な経験と高い見識”を教えてやるという考えなのでしょう。しかし、現場が嫌悪感を示すのは、その態度が偉そうに見えるからだけではないのです。
企業では定年が近くなると、あまり重要な仕事は廻って来ません。特に現在のように日々技術の革新が繰り返される時は、昨日の知識は翌日の無知ともなります。だからその知識や経験が“遅れたもの”ではないのか、厳しい検証が必要です。間違っている知識を現場が厳しいことを言えずに…と言う事もよくあります。
それ以外には「お金を費やさせない」とか「病気をしない」と言うのも重要です。特に前者はだれもが意外に思うようです。自分にはそれだけの価値があると信じて疑わなければ、社費は使って当然と考えてしまいます。社費とつかっても、それだけの結果を出すと。しかしそれは実は間違いです。かつてはそれでも良かったのでしょうが、今の考えでは、経験も能力もあるのなら、お金をかけずに結果を出してほしいというのが、半ば常識化しています。
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