官僚主導「年金支給開始年齢70歳引き上げ」行程が、こっそりと閣議決定。行きつく先は「官栄えて国滅ぶ」未来。

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世論の盛り上がりのない中で決定した国家の重要課題

先日、日本の社会に極めて重要、且つ深刻な影響を与える改正法案が閣議決定されました。閣議決定は国会審議とは違って、内閣内での決め事ですので、手続き的なものと考えるのは大きな間違いで、基本内閣の職権行使の内容を満場一致で意思決定するものですから、大変影響力をもったものです。

今回“こっそり”と閣議決定されたのは、「高年齢者等の雇用安定法の改正案」です。そもそも「雇用安定法」と謳っているのは「雇用環境が大変な事態になっていて安定していない」ことの裏返しですので、国民の論議がなければなりません。先の法律が決まった時も、「どうせ、舌の根の渇かないうちに、次は年金受給年齢を70歳に引き上げするだろう」との推測が跳びましたが、その通りになりそうです。

また、今回も官僚の露骨な策略となるのでしょうか。まずは、報道記事をご紹介します。大切なことですので面倒でもご一読ください。

「70歳就業機会確保、企業の努力義務 改正法案を閣議決定」日本経済新聞記事

政府は4日、70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法などの改正案を閣議決定した。定年延長や再雇用のほか、フリーランスや起業した場合に業務委託で報酬を払う選択肢も認める。長寿化に合わせ、意欲のある人が長く働ける環境を整える。今国会で成立すれば2021年4月にも適用する見通しだ。
高年齢者雇用安定法や雇用保険法など6本の改正案を束ねた。現行では希望者全員を65歳まで雇うよう企業に義務付け、企業は(1)定年廃止(2)定年延長(3)再雇用制度の導入――の3つから選ぶこととしている。改正案ではさらに「フリーランス契約への資金提供」や「起業支援」、「社会貢献活動参加への資金提供」なども選択肢として認める。高齢になるほど健康状態の差が大きくなるため、企業に過剰な負担にならないよう配慮した。
政府が進める全世代型社会保障改革の一環で、働く意欲のある高齢者は支え手に回ってもらい、少子高齢化が進む中で制度の持続性を保つ狙いがある。年収の0.6%と過去最低になっている雇用保険料率の引き下げ延長や、従業員数301人以上の大企業に正社員の中途採用比率の公表を義務付けることも盛った。
政府は同日、働き手が企業に未払い賃金を請求できる期間を延長する労働基準法の改正案も閣議決定した。4月の改正民法施行で賃金に関する債権の消滅時効が原則5年となるのを受け、当面は現行より1年長い3年までに延ばす。

さて、現行法と改正案の違いをまとめてみますと、以下になります。

現行法との比較

現行法
➀ 定年制度を廃止する
➁ 定年年齢の65歳以上までの引き上げ
➂ 希望者全員に対して、65歳までの継続雇用制度を導入

改正案では下記になります
➀ 定年制度を廃止する
➁ 定年年齢の70歳以上までの引き上げ
➂ 希望者全員に対して、70歳までの継続雇用制度を導入
それに加えて、65歳~70歳まで
➃ 他企業への再就職の斡旋
➄ フリーランスで働く人への業務委託
⑥ 起業した人への業務委託
⑦ NPO活動などの社会貢献活動の参加

そして、先に述べましたが、企業はこの中から1つ以上のメニューを導入しなければなりません。いかにも“いろいろ手を打っている”ようにみえますが、実際➃~⑦などは、わざわざ“65~70歳まで”と銘打っていますから、高齢者の雇用を安定させる目的には、ほとんど影響の与えないものです。
そうであれば、この改正法の主旨は、問題を65歳から70歳へ先送りしたに過ぎず、逆に日本国民はこの後、半世紀は三等国入りすることを確定するような事案です。

改正法の持つ深刻な問題点

しかし、この改正法は、いくら好意的にみても、高級官僚の保身のためのアリバイ作りとしか理解できません。おおよそ国民のためにならない仕掛けがあるからです。その問題点を4つ指摘します。

【1】改正案の本丸、「年金受給開始年齢の70歳開始への道筋ができあがった」

改正案はすべて65歳以降は「努力義務」とされていますが、それを真に受ける人はいないでしょう。なぜなら、努力義務であり、「年金支給年齢の引き上げは行わない」と言っていても、それはあくまで現在時点のことで、これまででも定年年齢と公的年金支給開始年齢の施行を少しずらしながら、上げてきた歴史があるからです。そもそも、「努力義務」という言葉も不思議な表現で、いわゆる“官僚語”というものでしょう。義務でなければ努力だけで済むものです。しかしそうなれば、実質上60歳から10年間、“働かなければ生きてゆけない”ことになります。団塊の世代のように、異常に恵まれた社会環境で生きてきた人たちが発想しそうなことで、これから10年もすれば“貧困退職者”が溢れてくることになりますが、その時には今の官僚は悠々自適で引退していますから畢竟は”我関せず”というところでしょうか。

 【2】65歳以降も働きたい場合の「働き場所の確保」など不可能

「60歳以降の再就職環境は改善されている」と発表されていますが、これはまったくの嘘です。確かに求人はあるかも知れません。しかしそれは「S(security).T(taxi).C(cleaner)」に表されるような仕事しかありません。その仕事は「長時間拘束」「肉体労働」「最低賃金」で、1年もすると体を悪くしたり、怪我をしたりして病院通いしなければならなかったり、鬱などの精神疾患を発病することになります。「終身雇用」だ「会社は家族だ」と言って数十年働いてきた最後に国や社会から裏切られたようなものです。
これからも「働き場所ができた」とか「希望ある老後」というような言葉が躍るでしょうが、それは官や既得権益者だけが栄えるような、不幸な時代になることです。

【3】すべては所属官省の利益のためだけ。「官栄えて国滅びる」が現実化する

少し前に中小企業の承継税制の改正がありました。日本の中小企業の後継者不足の解消のための政策と言われましたが、中味をみると“罠”がいっぱい張り巡らされたものです。これが広がらないのは、すでに対象となる中小企業の経営者には、少しでも税収を確保するための引っ掛けだと正しく理解されているからです。
官僚の発案した政策は常にこうした税金を国民から巻き上げるという発想があります。では今回の70歳就業機会確保の改正案には、どのような“罠”があるのでしょうか。
つい最近まで60歳で定年であったのに、65歳以降も会社員として働くとなれば比較して、10年間、厚生年金の保険料を支払い続けることになります。給料から厚生年金保険料が差し引かれるということは、その分手取り額が減少することになり、もともとまともな給料でない中から差し引かれれば、生活は益々苦しくなります。「いや、支払った保険料に応じて、老齢厚生年金を受給する際には上乗せされることになる。今後、公的年金の支給額の下落が予想されているので、それを補うことにもなる」と官僚は言いますが、それは本末転倒な話で、すべての責任を国民に押し付ける発想以外のなにものでもありません。

【4】 官僚も企業も、労働者の飼い殺しが社会標準になる

それだけではすまないことも起こります。60歳以降、もし企業が労働者を受け入れるとしたら、当然人件費は高騰するので、賃金は最低レベルに抑えられ、且つ厳しい労働環境下に置くことで自然退職に持って行くことになりますが、これはすでに今でも盛んにとられている手法です。
しかし問題は、これまでサラリーマン人生は40年とされていたのが50年となることです。もともと戦後の日本企業は40年の雇用期間の中で、最初の20年は仕事の価値から20~30%抑えた賃金で我慢してもらい、子供の成長と共にお金が必要となる40~60歳に仕事以上の賃金や、昇給、退職金をぶら下げてきました。しかしすでに経済大国ではなくなった日本企業のほとんどは、さらにプラス10年を支える仕組みを持ちません。既得権益者や安定企業などが巨大化し、労働者を飼殺すことに道筋が見いだされることになるのでしょう。

このような意見については、”すべて物事を否定的に見ている”とか”実際はそれほど酷くはない”との反論はあるでしょう。それにはこう答えます。ものごとには見る位置があります。例えば、江戸時代に庶民が暮らすとしたら、どの時代に生きたいかと聞かれれば、誰もが元禄と答えるでしょう。庶民文化が花開いた楽しい時代。しかしそれは役人の立ち位置からすると、自分達の力が届かない不遇の時代です。だから綱吉は愚鈍な将軍と記録されます。逆に吉宗の時代は、庶民は苦しい生活を強要された反面、役人が肩で風を切って歩ける時代でした。だから吉宗は名君です。今日本は官僚主導の息の詰まる時代です。これからは、貧困が瀰漫し、希望のない時代になる可能性が極めて高い時代です。しかし、そんな時代だからこそ官僚には天国ですから、彼らの目からはそうしか映らないのです。

 

実際、トヨタの豊田章男社長は「終身雇用制度を守っていくのは難しい局面」と発言し、定年延長どころか、不要な人材は早期に処分したいという本音を隠しません。普通に考えても定年の引き上げはむしろ、年功序列の給与体系や終身雇用を根本から崩壊させるだろうし、これはまさに官の目的なのだろうと考えられます。
正社員はすでに激減していますから、ホワイトカラーとかブルーカラーという言葉も無くなるでしょう。おそらく40歳を境目に、企業は従業員や役職者を締め出しにかかります。所詮、特別に有能な人間以外は、貧困階層となってゆく、希望のない社会が、今後少なくとも半世紀は日本に訪れることになるのでしょうか。

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