“中国人観光客の渡航申請の電子化”と“トム・クルーズの新作トップガン2のテンセントピクチャーズ問題”から見る、日本の対中インバウンド戦略の甘さ 

先頃、日本の外務省は2020年4月から香港を除いた7つの在中国公館で、中国人観光客に発行する査証(ビザ)の申請をオンラインで受け付け、同時に電子ビザを導入する予定と発表しました。同措置は時期をみても東京オリンピック対策なのは明白ですが、申請の対象者は中国人の団体客と個人観光一次ビザ(それなりの地位や収入があるか、身元が間違いのない大学生)なので、誰でもというわけではありません。だから、ビザ申請手続きを簡素化は訪日観光客の増加になり、且つ、在外公館のビザ発給業務の効率化や、不法入国防止などの水際対策強化の狙いがあると言うわけだと思いますが、こちらの効果はかなり限定的で、現在の中国人来日者の動向からみると、それほどの急務ではないかと思います。

また、これも先頃ですが、トム・クルーズが32年前に撮ったトップガンの続編が公開される予定だと聞きました。32年経ってもカッコ良さを追求できるトム・クルーズ自体も凄いのですが、この32年の間、彼が映画界で築き上げた製作者としてのキャリアには目を瞠るものがあります。最近は映画の公開前にYouTubeなどでメイキングがアップされることがあって、トム・クルーズの映画は彼の人気を反映して毎回撮影現場の様子をつぶさに見せてくれますが、その徹底した現場主義の様子には驚嘆します。

そのトップガン2が今、物議も醸しています。直接の原因は彼が新作ポスターで着ている革ジャンに、前作にあった日本と台湾のエンブレムが無くなっていて、これはチャイナマネーによる共産主義化が米国映画界へ瀰漫しているからだと言います。少し説明すると、トム・クルーズの映画やターミネーターシリーズ、スタートレックシリーズなどでヒットを飛ばしている米国のスカイダンス社の10%の株を取得したのが中国のテンセントホールディングスで、その取得の背景もテンセントがスカイダンスの企業価値を15億ドル(1,600億越)と評価して10%を弾いたもので、当時としては過大評価だと批判があったものです。その後、スカイダンスの映画には中国の影が脚本やキャストなどにも影響をして、それが中国に対する扱いの範囲ならばよかったのですが、今回のように日本や台湾外しなどの“外圧”となっては、その域を越えたと言う判断なのでしょう。

その可否については個人の判断に委ねますが、このインバウンド戦略については、日本は誠に不安なものを感じます。それは何といっても“インバウンド戦略の中の対中依存”の問題です。日本は数年前から政府の政策もあり、外貨の獲得に力を入れてきました。それによって、以前は閑散としていた観光地や商業施設などは中国人を中心にした爆買いに溢れ、思わぬイージーマネーが転がり込むことになり、世は特需景気に沸きました。政府はさらにインバウンドを進め、数年後には現在の倍以上の来日客を想定しています。

日本が外国人観光客で溢れて、その収益で潤うのは一見何も問題がないように見えます。しかしインバウンドの経験のなかった日本人は、そこにとんでもない弱点を持っていて、それが巨大なブラックホール化していることには、あまり気づいていないのが現状ではないかと思えます。

何も考えずに、中国人観光客に依存するだけでは“軒を貸して母屋を取られる”ことになる

例えば百貨店を例にすると、多くの百貨店は、インバウンドを中国人観光客の爆買い対応と解釈しているきらいがあります。だから売り場改装やテナントを入れ替え、中国人スタッフを揃えて、中国人が好む商品を強化したりします。日本の国内消費が落ち込んでいる時、日本人が手を付けないような商品を山のように買って帰る観光客の存在は福音かも知れません。しかし、これら爆買いは例えばネットなどで販売することが目的であったり、極端な富裕層の対応ですから、本来の品揃えとは乖離した“特需シフト”です。インバウンド需要が大きな収益をあげている間はよいかも知れませんが、当然、これまで支えてきた、日本人需要離れに繋がります。一時的に伸びたとしても、一度離れた消費者が戻っているかと言えば厳しいでしょう。

また、インバウンドの主役が中国であるということも、大きな注意が必要です。狙った国に対して、一時的に莫大な利益を与えておいて、ある日突然渡航制限などで圧力をかけて外交交渉など政治的な利用をするやり方は、彼の国の一般的な戦略です。これではいくら短期的に収益をあげても、いずれは主導権をとられて、太刀打ちできなくなる。狙われた国については“軒を貸して母屋をとられる”ことになります。

日本の企業は中国の人件費が安いとか、12億の需要があるというと、他国の戦略など考えずに進出します。それが同じ価値観と信頼感と条件に基づくものであれば、まだ良いのですが、どうもその視点の精度はお世辞にも高いとは言えません。日本から中国に進出した膨大な企業や事業は、そのほとんどが灰燼に帰しているのがなによりの証左と言えるのではないでしょうか。
現政権は、これまでと違ってそうした対応には、比較的的確な判断をしているように思えますから、冒頭の渡航申請の電子化にもある程度の線引きがされていますが、官僚やメディアや都市銀行については、一向に改善の兆しはみられていないのも現実です。

もうそろそろ日本人も変わる時が来ているのではないでしょうか

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