「失うものしかなくなる恐怖、多様化する健康問題」
引き算ばかりの“これからの人生”
ここまで老後の不安材料についてお話してきましたが、「体力 気力 病気などの問題は老後の不安のトップ事項であることは間違いありません。定年退職をした後、人はある種のゴールに到達したと考えます。これまでの時代は、定年退職後のバラ色の未来は提示してくれていましたが、その先の人生を生きる方法についてはこれと言って明確な指針を示してはきませんでした。
しかしこれからは、そのバラ色の未来はありません。それどころか、苦難に満ちた茨の道しか残っていない状況です。現在生きている人たちは、戦後の規格大量生産社会の画一的な社会で、物量が多いほど幸せであるという意識で生きてきました。
自分が蓄えたものは、それほど減少することはないでしょう。今の定年退職者はモノ余りの時代の価値観である物量の多い事はそのままに、健康や体力や精神力などが急激に減少してゆくのですから、これは“失うものしかなくなる”という恐怖感だけを増長させることになります。
ここでは、定年退職後に誰もが健康面での喪失感を感じる事柄について、具体例とそれに対する考え方などに言及します。
「定年不調」
これと言って特別にどこが悪いというわけではないが、体も心も疲れたような気がしてしまう症状。それが「定年不調」というものです。この症状が始まるのは、もちろん個人差がありますが、だいたい50歳~60歳くらいだと言われますが、50歳台では毎日の仕事や通勤でなんとなく症状が紛れ、反動で土日はもう何もする気が起きないようなようになるのが特徴です。定年退職したあとは、気が紛れることがなくなる上に、急な環境の変化が相まって、体面と精神面に影響を及ぼします。
この定年不調は、男性の更年期障害にあたるものと考えられていて、大筋はそれで誤りではありませんが、対処の仕方には注意が必要です。男性にも更年期があるというのは、今では常識になっていますが、それをして、男性ホルモンの低下が原因と診断、ホルモン補充療法が施される場合があります。しかし、この対処は一概に正しいと考えるのは医療費の無駄でもあり、且つ危険な場合もあるので注意してください。
同じ更年期障害でも、男性と女性では原因に大きな差があり、特に男性の場合、ストレスからくる自律神経失調症に伴うものが格段に多い傾向があります。では女性は単なる女性ホルモンの低下ばかりが原因とも言えず、近年では男女ともにストレスが原因でもあるので、症状が長引くようであれば心療内科などの受診も視野に入れるべきでしょう。
会社を辞めたのだからストレスはなくなるはずだと考えるものですが、そうでないことは、これまでの項目で述べてきました。男性は仕事をしなくなり、自分の存在価値が一気に目減りすることや、家の中や社会での自らの存在価値がなかったことに気づかされることは考える以上のストレスになりますし、女性も夫源病など配偶者の無意識からのストレスなどもありますから、まずはそちらから考えてみると良いアプローチになります。
「自律神経失調症」
年齢に関係なくおきる症状ですが、定年退職者に多くみられるものです。ただ前述の定年不調などの線は引き難い上に、対処法も違う場合があります。
自律神経というのは、外側からの刺激や情報に自動的に、無意識に反応する神経で、この機能を生体恒常性(ホメオスタシス)と呼びます。この神経にはよく聞く交感神経と副交感神経があり、視床下部にあるのですが、このバランスが乱れると、心身に様々な悪影響をもたらします。
呼吸や血液の循環、体温調節などが乱れることで免疫にも影響するので、様々な疾病を誘発するリスクが増えますので、これも看過できません。“自分の体には、どこか悪いところがある”と信じ込んで、病院を梯子しますが、行ったことで安心感を得られて、診察では何も悪いところは見られないなども、これに含まれますが軽く考えていると、これも長期化する可能性があります。
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「メンタル・クライシス」
希望や気力の枯渇と精神のバランス
定年退職者に多い健康問題にはストレスが原因であるものが多いと前述しましたが、ストレスとは少し違ったものに、このメンタル・クライシスがあります。精神的危機ということですが、これは精神が何らかのストレスでバランスが崩れるというのではなく、人生の晩年期を迎えて希望や気力が枯渇してゆくことに対する諦め感が原因のものです
もう後の人生が〇年しかないと思った時、その現実に負けてしまって、建設的な事に着手できなくなるのと、そんなことに関係なく、前に進み続けようとすることができるかの違いです。これが問題なのは、定年制度が持つ根本的な前提条件の問題があります。定年退職のない主婦などは人生に切れ目がありませんから、定年前と後を意識すること自体がありません。同じようにお店をしていたり、職人の世界などでも人生は続いてゆくので、“還暦”というおめでたい区切りがあるだけです。
ほとんどの定年退職者は60歳で、それまでの人生は一旦ご破算となり、ゼロからのスタートとなるので、社会的な強者から、再弱者へと転落し、そこへ様々な失うものが重なれば、精神面での危機を迎えることになります。よく言われるのは「せめて何か趣味があれば…」ということですが、それが仕事並みのレベルででもない限り、遅かれ早かれメンタル・クライシスは到来します。
新しいものを拒み、性格的に悪い面が表層に現れ始める。これを最大限に抑えるためには、少なくとも10年以上前から、生き方や働き方を変える必要があるのですが、現在の日本の会社システムは、それを許すものではありません。抜本的な意識改革が求まれる分野です。
このほかにもメンタル・クライシスには様々な側面があります。この年齢になると様々な病気について、潜在的な不安感があります。それを過剰に煽るのが医療や薬品・製薬会社です。「高齢者の二人に一人がガン患者です」などと言うフレーズは、今では普通に聞きますが、これなどは「嘘ではないが、真実でもない」の典型です。日々、見聞きするものが希望的なことでなく、病気や寿命などであれば、その積み重ねはクライシスともいえるメンタル・リスクになるでしょう。
定年後の問題は日本の経済問題…